ボートは海を突き進んでいく。

動き出してしまえば、船はそれほど揺れない。正確には、酔うような揺れ方をしないので動き出してしまった方が酔いには良い。

本日2本目は、昨日のパイプに再チャレンジである。

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ヨスジフエダイ。

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外部のストロボが欲しいな、とこの写真を見て思う。

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海の世界にも、似たような事を考える奴がいるものだ。目の模様をつける蛾や蝶の類が陸には存在する。

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海の世界は広く、自由だ。その分、競争が激しく厳しい世界でもある。

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彼らは生きる事に精一杯だ。

少し写真を撮る事に疲れた。あまり大物がいなさそうだったので、海の世界を自由に堪能した。

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海の世界というのは、まず基本的に音がない。本当は、タンクから空気を吸い込む時の音がしているのだが、意識的に聞こうとしないと聞こえない。

そして、何より重力がない。無重力である。宇宙飛行士の訓練でダイビングがあると、宇宙兄のシーンにあった気がする。

この無音・無重力の世界を堪能していると、いろいろな考えが浮かんでくる。今までの事、これからの事、そして今。

小さな魚たちを見ていると、彼らには彼らの世界があり、彼らなりに必死に生きている事がわかる。海藻を必死で食べるし、子育て中の親は巣に近づく魚を必死に追い払い、サンゴ礁の陰にはのんきに寝ている魚もいる。おそらく、今までの事、これからの事、今について彼らなりに考えて生きている。しかし、そんな彼らの世界での出来事を、僕らは想像しない。あまりにもちっぽけだろうと、勝手に思い込んで、想像するにあたらないと判断するからだ。

そして、そんな魚たちを見ながら、もしかしたら人間が必死こいて生きているこんな世界も、もしかしたらかなりちっぽけなのではないか、と思えてくる。僕たちが魚の生活をちっぽけだと思うように、誰かが僕たちの世界をちっぽけで想像するにあたらないと思っているかもしれない。

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そんな事を思いながら、水面をぼーっと眺める。

どの科にしようとか、どこで後期研修しようとか、そもそも医者を続けるかどうかとか、僕がたまに悩んでしまう事は、実は大した事では無いんだろう。

とにかく世界は広い。

今までヨーロッパといえば、パリ、ロンドン、ベルリン、ジュネーブ、ミラノ、ヴェネチア、などなど陸の事ばかり考えていた。しかし、世界にはもう1つ存在する。海である。つまり、多くの人が思っている世界の、2倍以上に世界は広いはずだ。海を知って、世界の広さを知った。



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自分が正しいと思った事を、一生かけてやってみよう。そう思った。小さな人間1人の人生が、少しでも広い世界に影響を与えるとすれば、そうするしか無いのだろう。

あとは、周りの人を大切にしよう。恋人、家族、親友、数は少なくていい、10〜20人くらいになると思う。そうして、変わら無い毎日を彼らと過ごして、笑いながらただただ時間をやり過ごし、子を生み育て、死んで行こう。

など、普段の忙しい生活の中ではなかなか考える事のできない事について考える事ができた。人生の大きな指標を2つ決め、ダイブを終了した。



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船に上がると、気持ち悪くて結局ダイブしなかったコウダ君、気持ち良さそうにスーツを脱いでお茶を飲んでいるコウダ父、船頭でオレンジを噛んでいるケイさんがいた。

「それじゃあ、岸に戻りますよ」

ミホさんがキャプテンに合図をする。船が動き出した。